衝撃的なタイトルの本「殺人出産」
- 2016/11/15
- 婚活自分磨き
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「コンビニ人間」が芥川賞を受賞し、一躍時の人となった村田沙耶香さんの作品。生と死という真逆のような言葉を抱き合わせたタイトルは、目を留めさせるインパクト充分。
10人出産すれば1人殺しても良い…それが当たり前となった世界のお話で、出産する人は「生み人」と呼ばれ、世間から尊敬され、税制面でも優遇されるなど特別な存在に。妊娠は必ず成功する訳ではなく、流産、死産はカウントされないため、達成には少なくとも十数年、二十年と長い期間がかかることも。出産で命を落とす可能性もあり、生み人はまさに命がけで「殺す権利」を目指します。
人口を維持するため、1人の殺意を世間が認めることで10人の新たな命を確保するという、ちょっと現在では考えられないような世界ですが、もしかすると、これはあくまで私の常識の範囲で「考えられない」と判断しているだけなのかもしれない。
色々なことが日々ゆるやかに変わっていき、私たちが常識と思っていることは100年後には全く違うのかもしれない。変化の中にいる人は気付きにくく、いつしか飲み込まれてしまいがちなのかもしれない…。10-1ならプラス9だから良いアイデア!と思ってしまう時代もくるのかもしれません。
ただ、殺人を出産と引き換えに是とすることを、物語とはいえどうしても受け入れることはできず、またそんなに変わっているのにOLのお昼の食事風景がお局様に気を遣ったりなど、現在と変わらない様子に違和感がありどっぷり浸かることはできませんでした。
「人間は本来殺人衝動を持ってる」のが前提にされている本もよくあるけれど、どうしても腑に落ちないのは私があまりに平和な世の中に暮らしているせいなのか…。
かなり頻繁に出てくる昆虫スナックも、世界の食糧事情を考えるとあながち0%ない話ではないかもしれませんが、虫が苦手な方にとっては読み進めるのが苦痛になるかもしれません。
この本は短編集で、他にも「トリプル」や「清潔な結婚」「余命」といった、現在の常識をはるか彼方にぶっ飛ばしてしまうような小説が収録されています。でも、現在でもその変化の芽となる現象は少しずつどこかで起きているのかも…と少し考えさせられました。
正直なところ読後爽やかでもないし、感動もしないし(すみません)、「大作を読み切った!」という満足感もありませんでした。でも、何か気になって新作が出ると読みたくなってしまうような作家さんなのかもしれません。